林真理子のBeautiful Voice なるほど! 小田急

story.22 お土産の心

親しい友人のホームパーティーに招かれた。奥さんの方は、自分のうちで料理教室をやっているほどの腕前だ。そしてご主人は、大のワイン好きで、私たちが行くと高価なヴィンテージをぽんぽん抜いてくれる。

デザートを何か持ってきて、と言われていたので、私は家の近くの有名洋菓子店で何個か見つくろってもらった。別の友人はチーズをと頼まれたそうだ。

六人ほど人が集まったところでチャイムが鳴った。一人女性がやや遅れてやってきた。三十代のキャリアウーマン、今日は先に来ていた友人に誘われたそうで、夫妻とは初対面だという。

活発な女性で話も面白い。が、私はちょっと気にかかることがあった。彼女が手ぶらでやってきたことである。

「初めてのおうちで、何も持たず、よくあれだけガバガバ高いワインを飲めるなあ…」

と内心意地悪い気持ちになってしまう。もし時間がなかったとしても、たとえ大福五個、小さな花束でもいい。お邪魔させてもらいます、ご馳走になります、という気持ちは表すべきだったのではなかろうか。

最近よく雑誌で「手土産特集」というのをやり、私のところにもしょっちゅう依頼がくる。

「あなたのいつも持っていくものを教えてください」

というのである。そんなものは状況によって違ってくる。相手の年齢、人数、そして訪問の意味合いによっていろいろ考えなくてはならない。ディナーの時はちょっと張り込むし、ちょっとお茶を飲むぐらいなら、軽いお菓子であろうか。独身の男性の持ち寄りパーティーで喜ばれるのは、近くのお鮨屋さんでつくってもらう巻き鮨だ。折りに入った綺麗なお鮨は、とても贅沢をしているような気分になるらしい。わっと歓声が上がる。

もう二十五年前になるだろうか。社会的にとても地位がある方が、ある賞をおとりになり、何人かの女性たちで、一席もうけようということになった。四人で和食のお店にご招待したところ、その方はひとりひとりに、とても高価なブランドもののスカーフを持ってきてくださったのだ。有難いことではあるが、「これで貸し借りなし」というニュアンスもなんとはなしに伝わってきて、「えらい人はこういうことをするんだなあ…」

と思ったものだ。

ところがあれから時は流れ、今ではその方式が主流になりつつある。私は仕事柄、人にご馳走になったり、ご馳走することが多い。お店で自分がご馳走になった時は次の日に礼状を書き、折を見て何か送る。が、最近は若い人におごると、その時に手土産を持ってきてはくれるのだが、お礼のメールひとつない。マナーが確実に変化しているのであろう。お土産を手渡せばすべてが終わる、というやり方。が、そういう時の菓子折は妙にひやっとしているのである。