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林真理子のBeautiful Voice なるほど! 小田急

story.2 粉もの大好き

パンケーキが大好きだ。メニューにこれがのっていると、必ずといっていいほど注文してしまう。この他にもドーナツ、スコーンといったものに目がない。粉ものが好きなのだ。

こうした粉ものというのは素朴さが身上ではなかろうか。ケーキやチョコレートのように巧妙なテクニックはそう要らないような気がする。そのため素人もやりやすいものらしく、住宅地の小さな店が目につく。こういうところに寄って、お茶を飲みながらパンケーキやドーナツを食べるというのは本当に楽しい。

私の住んでいる町には、木造の民家を改造したドーナツ屋さんがある。格子戸を開けて入るとショーウインドウがあって、綺麗な若いお嬢さんたちが焼くドーナツはなかなかの人気だが、手づくりのためにそう何個も焼けないものらしい。

「お持ち帰りは五個まで」

という表示が、このあいだ行ったら三個に変わっていた。また駅前に最近オープンした小さなカフェでは、ドライフルーツケーキを出してくれるのであるが、生クリームが添えてあって、何ともおいしい。ここを経営しているのも、とても可愛らしいお嬢さんである。

いろいろなアンケートを見てもわかることであるが、お店を出す、パティシエになるというのは若い女の子の憧れの職業のようだ。彼女たちの夢をそのまま結実したような小さな小さなお店が、この頃急に増えたような気がする。繁華街や都心に出店するには無理があるだろうが、ふつうの住宅地では可能なのに違いない。

「こんなところでやってて商売になるのだろうか」

と思うような界隈にも、ひっそりとカフェの看板を見ることがある。商家に育った私は、その後が心配で、通るたびに窓から覗いている。そしてぽつぽつ地元の人で席が埋まっていてホッとするのだ。

すべてに関して地元主義の私は、ヘアサロンもネイルも食事もエステもたいていは近くで済ませている。だからこそこうして小さなカフェに目が行くのであろう。

ちょっと時間が出来た時など、まず駅前に行き、書店で本を一冊買う。それを持って家に帰る途中のカフェに入る。一輪挿しのデイジーに迎えられながら、コーヒーとドーナツをいただく幸せ。

自分の町だからもちろん素顔のままで、普段着のサンダルを履いている。こういう格好の時にショートケーキやパフェは似合わない。やはり粉ものなのである。

そしておばさんの私は、店主である女性に声をかけずにいられない。

「やっと涼しくなったわね」

そうですね、という答えがある。もの静かではにかみ屋なのも、こうした店主の特徴である。