story.7 トロフィーワイフ

トロフィーワイフという言葉がある。
富や名声を手にした男が、その人生の褒賞として、若く美しい妻を手に入れることだ。
当然男は中年以上となり妻子がいる、となれば”チェンジ“となるわけだ。
しかし日本ではあまり聞いたことがない。私のまわりでも”チェンジ“している人が何人かいるが、自由業の人たちだからそうお咎めがない。問題は財界人と呼ばれる経営者たちである。
何年か前、私も知っている大きな会社の社長さんが、六十代で奥さんと別れて若い女性と結婚した。その時の騒ぎといったらなかった。ある企業の会長は、吐き捨てるように私に言ったものだ。
「我々の社会で、ああいうことをする男は本当に軽蔑されるよ」
欧州と比べ、日本は夫婦単位で社交することがあまりない。この頃多くなったというものの、たいていの奥さんは地味におうちの中にいる。
年をとっても美しくて華やかで、素敵なファッションに身をつつんでいる夫人は、たいていオーナー企業の奥さんだ。サラリーマンからのトップの夫人は、どことなしに社宅時代の趣をひきずっているというのが私の印象だが、日本のたいていの男の人は、そういう奥さんをとても大切にしている。自分は外に出てそれなりのことがいろいろあったにしても、まず別れることはない。だから日本の裕福な奥さんたちは、わりと安逸に暮らしていけるのだと私は思っている。
先日、ディカプリオ主演の「ウルフ・オブ・ウォールストリート」という映画を見た。証券会社を創業し、ボロ儲けしていく経営者に彼が扮している。お金が入るにつれ、主人公は破天荒なお金の扱い方をする。それを危ぶみ注意するのは美容師の妻だ。主人公は苦労を共にしたこの最初の妻を、さっさとチェンジする。トロフィーワイフは、輝やくような美貌の若きモデルだ。そしてこの新しい妻が、前の妻と違うところは、主人公の富やプレゼントに驚喜することだ。イエローダイヤや、自分の名前をつけた豪華ヨットに、彼女はとび跳ねて喜ぶ。贈る男はさぞかし嬉しいことであろう。同性からみると、「こんな女にひっかかって…前の奥さんの方がずっと純粋だった」と思うが、成功の美酒にひたる男には、やはりトロフィーワイフが必要なのだ。
先日亡くなった有名女優に多くの同情が集まっている。彼女は必死に働いて夫の借金を返し、そのうえ難病にかかった彼を心をこめて介護した。ところが元気になったとたん、夫は浮気して別の女性と再婚するのだ。私のまわりはみな「ひどい」と憤っていたが、私はそうは思わない。借金も病気も奥さんが解決してくれ、その有難みは男にとっては、どれほどの重荷になったろう。正しい妻が必ずしも愛されない。それが男と女のつらいところである。