story.13 最高の年代|コラム‐Beautiful Voice|小田急沿線情報 ODAKYU VOICE home
林真理子のBeautiful Voice なるほど! 小田急

story.13 最高の年代

先日文庫の新装版が出た。新装版というのは、もう一度装丁を新しくして売り出しましょう、という試みだ。

その小説を読んで驚いた。主婦とキャリアウーマンとの対立を描いた小説なのであるが、二人ともしょっちゅう

「私たちはもう若くない」

と嘆いている。その年齢が三十四歳なのだ。今なら三十四歳といえば、まだ若い女性の部類に入る。美しさも頂点を迎えつつある頃だ。三十年前に書いた小説であるが、そのくらい女性たちは変わってしまったのである。

現代において、

「もう若くないかも‥‥」

と自覚するのは、四十代後半かもしれない。その頃になると、加齢による変化が少しずつ出てくるからだ。

とはいうものの、四十代はまだまだ綺麗で魅力的である。神さまがくれた実り多い時間だ。なぜなら私自身の経験からいっても、五十を過ぎると世のしがらみの悩みは、どっと出てくる。自分の親や夫の親の介護の問題、夫の定年は近づき、子どもの結婚問題は結構深刻だ。こういうストレスのためか、更年期に悩まされる人は多い。先日も五十代の女性が何人か集まったら、話題といえば親のめんどうをどうするかということと、自身のホットフラッシュであった。体の機能がうまくまわらず突然汗が吹き出すのである。

そこへいくと四十代というのは、なんと素晴らしかったのだろうか。まだまだイケる、という自信が体中にみなぎり、それが積極的行動となったはずだ。

私が

「四十代がいちばん楽しかったかもしれない」

というと、若い友人たちはみな「ウソ!」と信じてくれない。二十代の彼女たちにとって、四十代の女性というのは、男性にも見向きもされないくたびれた人たち、というイメージがあるようだ。

私の男友だちは口を揃えて、四十代の女性の魅力を賛える。もう若くはないけれども決して衰えてはいない、その加減がとてもいいというのである。

私が思うに、四十代の女性というのははっきり二分されている。ひとつは自分がまだまだ価値があることを充分に知っていて、努力をしつつもその外見がやや過剰になっている女性。”美魔女”などという呼称がつき、彼女たちは完全に市民権を得ている。

片方は、自分など取るに足らない者、と思い込んでいる四十代、こちらは手を抜いているといおうか、途中から諦めている。しかし中年になりかけた女性は、いろんなものからいったん手を放すともう二度とは戻らない。ダイエットを怠ると、新陳代謝の悪くなった体はすぐさま肉をつける。肌の手入れもおろそかにすると、あっという間にシミやシワが発生する。四十代からの女性は、自分自身の採点表をあらわにして生きているようだ。ここに教養や美意識といった別課の得点も加わる。全く四十代はぼんやりしていられないが、それだからこそ本当に楽しかったのである。