story.18 本当の私

昔から自分は人づき合いが下手だと思い込んでいた。人見知りは激しいし、人の中でうまくたちまわることが出来ない。それほど人に好かれる性質ではないなあと考えていたのであるが、つい最近ある人と対談して、
「林さんは、人づき合いの達人ですね」
と言われ驚いた。その方は日頃から私と親交があるから、イメージだけで言っているのではない。しかし、
「人との距離のとり方が絶妙です」
という言葉に納得した。
私は食事のお誘いを断らない。おいしいものを親しい人たちといただく幸福は、私の人生のうちの二位か三位となっている。が、必ずといっていいほど、私は一次会で帰る。二次会の酒席やカラオケに行ったことがない。だらだらお酒を飲んでいても、楽しいことは何も起こらないことをよく知っているからである。恋の始まりが予感されるような若い時ならともかく、人は深夜は家にいるべきだ。
家族とすごし、ゆっくりと体を休める。
充分リラックスしているからこそ、私はしょっちゅう新しいことに挑戦出来ているに違いない。
昨年は二十年ぶりに、お茶のお稽古を始めた。毎週お茶をいただいたり、自分でお点前をするのが楽しくてたまらない。お茶の先生と約束して、今年からお稽古には着物で行くこととなった。その準備のために、着付けを練習したり、手持ちの着物をあれこれ調べているうち、私の中の”着物愛“ がまた復活したのだ。そのため、歌舞伎座での御芝居も着物で行こうということになった。
その他、新しいやり方でのダイエットやエステも始めることにして、クリニックのチケットを買った。世間ではダイエットやエステと聞くと、
「女がいつもやっている馬鹿馬鹿しいもの」
と嗤う人がいるが、とんでもない話だ。私はダイエットとエステこそ、女が前向きに生きていくための重要事項だと信じている。
髪も肌も荒れて、ぶよぶよに太った状態で、明るいことを考えろ、というのは到底無理な話だ。
考えてみると、『私はこういう人』と、決めつけることぐらいラクチンなことはない。私もいつもその手でやってきた。
「私は人見知りです」と宣言すると、自分がとてもナイーブで、いい人になったような気がする。そしてその言葉を、人とうまくいかないことの言いわけにするのだ。その結果、友だちでうまく楽しそうにやっている人のことを、
「あの人は社交的で器用な人だから」と嫉むようになってくるのである。
「私は怠け者です」というのを、私は今でもよく口にする。
が、自分でも気づいているが、それは人に嫌われたくないためのエクスキューズなのである。ガツガツしていると人に言われたくないのだ。が、自分で考えているよりも、他人の指摘の方が正しいこともある。人への好奇心に溢れ、新しいことをいつも探している私は、意欲的な人間と人はとらえているようだ。それは有難いことだと素直に思う。