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林真理子のBeautiful Voice なるほど! 小田急

story.28 日本のレストラン

女友だち数人と、おしゃれなフレンチレストランでランチをとることになった。広いダイニングルームに通されて驚いた。どのテーブルにも、私たちのような中年女性のグループが占めていたからである。もはや珍しくない光景といっても、男性が一人もいないことに感慨深いものがあった。

夜になると、中年女性に替わってレストランは、若い女性でいっぱいになる。レストランといってもわりと気楽な店で、若い綺麗な女性たちがにぎやかにワインの栓を抜き、大皿料理を取り分けて食べている。私はその光景を見るのが大好きだ。本当に楽しそうに、今を楽しんでいる、という感じがする。

何年か前パリに行った時、在住の知人にこう教えられた。

「ね、店はカップルばっかりでしょ。こういう店に来るのは恋人同士か、近々恋人になるべく探り合いをしている二人なのよ」

その後もあちらのレストランへ行くたびに観察したところ、すべてといわないまでもカップルは確かに多い。

そのパリで十七、八年ぐらい前に講演をしたことがある。日本文化会館の招きで、あちらの方に日本の文化を語ってほしいと言われたのだ。といっても、私の場合来てくださったのはほとんどが、駐在員の奥さんか、留学生の方々であった。

終わった後、日本通のフランス人が質問してきて、

「日本におけるフェミニズムについて教えてください」

に、たじたじとなったことを憶えている。

「日本の女性は、ステータスはないけれどもパワーはあります」

そう答えたのも昔の話。現代の女性たちは、パワーはもちろんステータスもある。努力して多くの女性たちが手に入れてきたものだ。私はお喋りをしながらおおいに飲む若い女性たちに、未来の管理職を見て頼もしく思うのである。

彼女たちは真面目で努力家だ。学ぶことが大好きな人たちである。まわりの親しい女性たちを見ていても、何かの課題のように食べ歩きを研究し、ワインの知識を身につけていく。私もワインが好きなので、よく男の人から君が選んで、と頼られる。実はたいして詳しくはないけれども、ワインリストを手にしていろいろと話すのは楽しいものである。

しかし有名な評論家からこう言われた。

「女の人がソムリエ相手に、丁々発止とやるのは日本だけだね。ヨーロッパでもアメリカでもまず見たことはないね」

どうせ男に払わせるのだろう。女が口を出すな、と言うことらしい。

欧米ではレストランというのは、かなり保守的な場所なのだ。そこへいくと日本の女性ののびのびしていることといったらどうだろう。女同士ワリカンで食べ、男性と一緒でも好きな酒を自分で選ぶ。いろいろ問題はあるけれど、日本は結構いい国ではなかろうか。